to不定詞をめぐって<リーガル翻訳>shallの射程

[ECS shall use its best efforts to protect the confidentiality of all User Data.]

to不定詞の副詞的用法の訳し方に、原因結果型目的手段型があります。

原因結果型:
ECSは、最善の努力を尽くして利用者データの機密を保護するものとします。

目的手段型:
ECSは、利用者データの機密を保護する為に最善の努力を尽くすものとします。

よくある訳し方は、原因結果での訳です。

Mary went out into the field to pick berries.
(『大改訂新版 英文法総覧』(安井稔・安井泉)320頁、開拓社、2022年)

いちごをつみに、メアリーは野原へ出かけていった。(目的手段型)

と上記書には訳が書かれています。
しかし、多くの翻訳者は、次のような訳をするのではないでしょうか?

メアリーは野原へ出かけていって、いちごをつんだ。(原因結果型)

この点、一般の文であれば、原因結果型なのか目的手段型なのかをあまり気にする必要はないだろうと思います。
ですが、リーガル文書では大きな違いをもたらします。

原因結果型の訳(ECSは、最善の努力を尽くして利用者データの機密を保護するものとします)では、
機密保護義務があることになります。

目的手段型の訳(ECSは、利用者データの機密を保護する為に最善の努力を尽くすものとします)では、
最善の努力を尽くす義務(最善努力義務)があることになります。

この機密保護義務 vs. 最善努力義務がどういった違いをもたらすのか?

機密保護義務(原因結果型)だと、機密を保護する義務を負わされます。
これは、機密保護に失敗した場合に義務違反に問われることを法的に意味します。

これに対して、
最善努力義務(目的手段型)だと、機密を保護する為に最善の努力を尽くす義務を負わされているだけです。
機密保護という結果の実現までの義務は負わされていません
機密が漏れた場合でも、最善努力義務を尽くしていたのであれば義務違反に問われないのです。

この二つの訳は、機密保護に失敗した場合の義務者の責任の範囲について大きな違いを生むのです。

決して、to不定詞は原因結果型で訳をすべしなどといった間違ったマニュアル思考では太刀打ちできません。
法務分野の深い体系的知識がリーガル翻訳では求められています

原文を見ると、

[ECS shall use its best efforts to protect the confidentiality of all User Data.]

[ shall ] は [ use ]と結びついています。
[ shall ] は [ protect ] とは結びついていません。
[ shall ] の射程は [ use ]にだけ及んでいるのです。

原文のこの [ shall ] の射程は、リーガルにおいてはしっかりと意識しないといけません。
なぜなら、[ shall ] は義務を表す専門用語であり、リーガルにおいては最重要語だからです。
義務の範囲がどこまで及ぶのか、は契約当事者の最大の関心事です。
[ shall ] の射程には細心の注意を払うべきです。

to不定詞の副詞的用法は、
一律原因結果型だ!
一律目的手段型だ!
といった画一的な発想は捨てましょう。

リーガル翻訳者養成の翻訳学校

リーガル翻訳者養成の翻訳学校は、

  • 法務博士
  • 特定行政書士
  • JTF翻訳士
  • リーガル専門

の翻訳者である真栄里が講師を務める翻訳学校です。
(運営は、株式会社 英文契約サポートセンター沖縄
小手先ではない、リーガルの本質を理解した一生物の翻訳力をつけたいと願う方向けに当校を開講した次第です。
リーガル翻訳者になりたいと本気で考える方のお申込みをお待ちしております。

申込み

    前回の

    専門知識と英語力の関係については、
    原義から理解(7)breach vs. infringe
    をご一読いただけると幸いです。

    フォロー

    コメントを残す

    This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.