権利の法的仕組みと法務翻訳<リーガル翻訳>mayと法務翻訳

mayと法務翻訳

今回は、mayと法務翻訳についてです。
法務翻訳においては、権利として「〜することができる」を翻訳する際、[may]を用います。[can]ではないんですね。
一般的には、「〜することができる」は[can]なのですが、法務翻訳においては[may]なのです。
これは、なぜなのでしょうか?

mayとは?

mayの意味には、大きく次の二つがあります。

I 可能性・推量(〜かもしれない)
II 許可(〜してよい)

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「〜することができる」という意味がmayには直接にはありません。
ですが、法務翻訳で、権利として「〜することができる」を翻訳する際は[may]を用いるのです。
法的素養がない方であれば、「〜することができる」=[can]となると思いますが、[can]は使わない。
これは、もっぱら「権利」というものの法的な理解に関わってくることです。

権利とは?

ここで権利とはどのように発生するのかを考えてみましょう。
皆さん、契約をしたら権利が発生するとお考えかと思います。
たとえば、A(売主)B(買主)間で甲建物の売買契約をした場合、買主Bは売主Aに対して甲建物の引き渡しを請求する「権利」を取得します。
その権利をBが行使して「甲建物を私に引き渡してください」とAに求めることが権利行使です。
Bの権利行使に対してAが任意にBに甲建物を引き渡せば(BはAに代金を支払う)この契約は問題なく終了します。

AがBに引き渡さない場合は?

この場合、Bは自力救済(無理矢理Aから甲建物を奪う)はできないので、Bは裁判所に訴えることになります。BA間で訴訟となり、Bが勝訴すれば、BはAから甲建物の引き渡しを受けることができます。
この訴訟という制度があることが、権利として「〜することができる」を翻訳する際に[may]を用いることと関係してきます。

mayと法務翻訳

契約を締結したのにAが任意にBに甲建物を引き渡さない場合、BはAに甲建物の引渡請求権を有しているから引き渡してくれ、と言ってもそのBの権利をAは否定しているわけですからその権利がそもそもBにあるのかが怪しい状況になっています。
自力救済できず、裁判所に訴えて裁判所にBに権利があるかどうかを認定してもらわないとBはAに甲建物の引き渡しを請求することができないわけです。
ここで、注意して欲しいのは、訴訟になった場合、Bに権利があるか否かは裁判所が認定するという仕組みになっているということです。
裁判所が、Bに権利があると認定するということは、Bがその権利を行使して良い、ということを裁判所がBに許可しているということなのです。
だから、権利として「〜することができる」を翻訳する際に「許可」を意味する[may]を用いるのです。

法制度とmayと法務翻訳

法務翻訳(リーガル翻訳)においては、法制度の仕組みがわかっていないとなぜその単語を用いているのかがわからないことがでてきます。
単に表面的に専門用語を覚えても正確に使えないのでは全く意味がないのですので、その来歴というものをしっかりおさえた上で翻訳にあたる必要があります。

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